学校ルポ/上野中(高千穂町)

農業の現状、課題学ぶ 「自分ごと」として考える

 国際交流や伝統文化など、身近な問題について考えさせる中学校の道徳の授業。だが単に教科書を読ませるだけでは、授業で取り上げる問題を生徒たちが「自分ごと」として考えないのではないか-。県NIE推進協議会の本年度独自認定校の高千穂町・上野中(末原幹大校長、24人)では新聞を活用し、生徒の心に響く授業を展開していた。

 この日のテーマは「国の伝統と文化」。教科書には日本の米作りの歴史、米やわらを活用する文化、環境に与える効果、生産者の減少への懸念などがコンパクトにまとめられていた。

 池田恭平教諭(38)は1年生7人に対し、まずタブレットでアンケートを取った。「自宅や祖父母の農業を将来引き継いだり、手伝ったりしたいと思いますか」。「農業は引き継がないが手伝う意思はある」と回答したのは5人、2人が「引き継がないし手伝わない」と答えた。農業に心理的距離を感じさせる結果になった。

 教科書の内容を確認した後、池田教諭は「農業をする人が減ったら何が起こるだろう」と問いかけた。生徒たちは「田が荒れる」「野菜が高くなる」「栄養失調になる」など、自分たちが考えた予想を次々に発表。しかし、池田教諭が「お米については、すでに影響が出ているんだよ」と言うと、生徒たちの表情が変わった。

 池田教諭は、昨年10月や今月掲載された宮崎日日新聞の記事、農林水産省のホームページをモニターに掲示。新米が出回った後も価格が高止まりし、最新の昨年12月と3年前の価格を比較すると、玄米60キロ当たり1万円以上の上昇になっていることを説明した。

 「お米は買ったことがないから値段が上がったと言われても分からない」と口にしていた生徒も、実際の数字を見て驚いた様子。池田教諭は需要に対して供給が少ないため高騰していると述べた上で、「お米の量が少ないということは、きょう勉強した『農業をする人が減っている』という内容につながっている。日本の農業を支えるには考え方を変えなくてはいけない時期に来ています」と指摘した。

 社会の出来事を自分の生活とつなげて考えてほしい-。そんな思いを感じさせた授業だった。

写真=新聞記事を通じ社会の問題を身近に考えた上野中の道徳の授業

池田恭平教諭

授業説得力高まる

 今回は国の伝統と文化がテーマだったが、インターネットでのトラブルについても新聞を素材に生徒たちに考えさせた。新聞を使うと授業内容の説得力が高まるのでうまくいく。朝の会や帰りの会で新聞記事から感想をひと言発表する取り組みも行い、新聞に目を通す習慣がついてきた。「14歳の君へ」への投稿も自分の考えを表現する訓練になっている。新聞を使った学びを通じ、これから成長していく中で「あのときこんなことを考えていたな」と思い出してくれるとうれしい。